京都のオーバーツーリズムは何が問題?市民生活と観光を両立する方法
京都のオーバーツーリズムは「観光客が多い」だけの問題ではありません。京都市の最新調査から、市民が感じる負担と観光の必要性を整理し、地域・宿泊施設・旅行者が共存する方法を考えます。
京都を訪れる旅行者が増え、「オーバーツーリズム」という言葉を耳にする機会が増えました。清水寺、祇園、伏見稲荷、嵐山などでは、季節や時間帯によって多くの人が集中します。
ただ、京都のオーバーツーリズムを「観光客が多すぎる問題」だけで説明すると、本質を見失います。
70.1%は「観光が重要」。一方で79.9%が何らかの迷惑を感じている
京都市が2025年に実施した「京都観光に関する市民意識調査」は、市内在住の18歳以上5,500人を対象とし、2,745件の有効回答を得ています。
その結果、70.1%が「京都市の発展に、観光が重要な役割を果たしていると思う」と回答しました。また、65.2%が「京都市が観光に関して評価されることを誇りに感じる」と答えています。
一方、公共交通機関の混雑、道路渋滞、一部観光地の混雑、観光客のマナー違反の4項目のうち、少なくとも一つで「迷惑している」と回答した市民は79.9%でした。
「観光は必要だと思う。でも、日常生活への負担は減らしてほしい」。この二つは矛盾しません。むしろ、その両方が存在していることこそ、京都のオーバーツーリズムを考える出発点です。
なぜ京都のオーバーツーリズムは生活問題になるのか
京都は観光都市であると同時に、約140万人が暮らす生活都市です。観光地の近くにも住宅があり、学校や病院、スーパーがあります。
旅行者が使う道路、地下鉄、市バスは、市民も通勤・通学・通院・買い物に利用します。そのため、観光客の集中が一定の水準を超えると、「観光地が混む」という話だけではなく、市民の日常の移動や生活環境へ影響する問題になります。
重要なのは、京都市全域が同じように混雑しているわけではないことです。混雑は清水・祇園、嵐山、伏見稲荷、京都駅など、特定の場所や時間帯、交通手段に偏りやすい。だからこそ、総人数だけを見るより「どこに、いつ、どうやって集中しているか」を見る必要があります。
観光の経済効果を、市民全員が実感しているわけではない
同じ市民意識調査では、「観光客が訪れることで、売上の増加や給与等への好影響につながっていると感じる」と回答した市民は17.7%でした。
「市内に魅力的な店舗が増えている」は20.4%、「町並みが美しくなっている、まちに活気が出ている」は14.9%。一方で「文化や文化財に注目が集まることで、改めてその素晴らしさを感じる」は36.0%です。
観光による経済効果が京都市全体に存在していても、その恩恵を一人ひとりが直接感じるとは限りません。バスの混雑や道路渋滞は毎日の生活で目に見えやすい一方、観光による税収や雇用、文化保全への効果は見えにくいからです。
そのため、持続可能な観光には「観光消費額を増やす」だけでなく、観光による利益が地域へどう還元されているかを見える形にすることも必要です。
京都市の対策は「来ないでください」ではなく、集中を和らげること
京都市は2026年秋の観光シーズンでも「市民生活と観光の調和・両立」を掲げています。
京都市が示す対策には、分散化・周遊観光、道路混雑対策、市バス混雑対策、手ぶら観光、京都駅への一極集中緩和、観光マナー啓発、地域と連携した取組などが含まれています。
つまり、対策の中心は単純な「観光客を減らすこと」ではありません。特定の場所・時間・交通手段への集中を緩和し、市民生活への負荷を小さくすることです。
観光客が一部に集中する理由と分散の考え方については、「京都の観光客はなぜ一部に集中する?」でも詳しく整理しています。
2026年10月、京都市は「KYOTO TOURISTSHIP」を開始
2026年10月1日、京都市と京都市観光協会は「KYOTO TOURISTSHIP」を開始しました。
京都市によると「ツーリストシップ」とは、観光客が旅先に配慮・貢献しながら交流を楽しむ姿勢や行動を指します。「旅する人も、住む人も、心地よい京都へ」を掲げ、観光マナーの周知方法そのものを刷新しています。
ここで大切なのは、旅行者を一方的に叱るのではなく、地域の暮らしや文化を知ったうえで京都を楽しんでもらうという考え方です。
「禁止事項を増やす」だけでは、旅行者と地域の距離は縮まりません。なぜそのルールが必要なのかを宿泊施設や観光事業者も伝え、旅行者自身が選択できるようにする。その方が長期的な共存につながります。
宿泊施設は、観光客と地域をつなぐ接点になれる
京都市と京都市観光協会は、地域と調和し貢献する宿泊施設の優良事例集「これからのお宿」を公開しています。
そこで示されているのは、宿泊施設を単に「旅行者が寝るための建物」として扱うのではなく、地域の多様な主体の一員として、市民生活と調和し、地域団体と連携して地域経済やコミュニティへ貢献する存在として考える視点です。
ホテルは、旅行者が京都に到着してから地域について情報を得る最初の接点の一つです。
- 今日はどこが混んでいるのか
- 市バス以外にJRや地下鉄を使えないか
- 住宅地ではどんな配慮が必要なのか
- ホテルの周囲にはどんな店や文化があるのか
こうした情報を伝えることができます。行政よりも旅行者に近い場所にいるからこそ、宿泊施設にできることがあります。
HOTEL ECCLESIAも「地域の中にあるホテル」を目指す
このHOTEL ECCLESIA GUIDEを運営するHOTEL ECCLESIAは、京都市中京区・二条エリアにあります。
私たちは、京都へ宿泊客を呼ぶことだけがホテルの役割ではないと考えています。ホテルの周囲にも日常生活があり、宿泊施設自身もその地域の一員だからです。
2026年8月には、HOTEL ECCLESIAを会場として地域の子ども向けの夏休み工作ワークショップが開催されました。また、「ながもと夏まつり2026」では、京都大学落語研究会による怪談・落語、屋台、子ども向けの遊びなどが行われ、地域の子どもや家族がホテルへ集まる機会になりました。
地域の人にも使ってもらい、地域で活動する人や団体とも関わる。これは大規模なオーバーツーリズム対策ではありませんが、観光事業と地域との距離を近づける一つの方法だと考えています。
観光事業と地域を融和させる5つの方法
1.混雑する場所だけを案内しない
清水寺や嵐山だけではなく、二条、西陣など、旅行者がまだ十分に知らない地域にも選択肢を広げます。観光分散は混雑緩和だけでなく、観光消費をより広い地域へ届けることにもつながります。
2.「市バス一択」の案内をやめる
目的地によってはJRや地下鉄、徒歩の方が快適な場合があります。宿泊施設が複数の移動方法を案内することで、旅行者自身の満足度と公共交通への負荷の両方を改善できます。
3.地域のルールを理由と一緒に伝える
夜間の騒音、ごみ、私有地への立入りなどについて、「禁止です」で終わらせず、「ここには暮らしている人がいる」と背景まで伝えることが大切です。
4.旅行者の消費を地域へつなぐ
ホテルの中だけで消費を完結させず、周辺の飲食店、商店、文化施設などを紹介する。観光による利益が地域へ届く経路を増やすことが、地域側の実感にもつながります。
5.宿泊施設を地域にも開く
イベントや地域活動への協力などを通じ、ホテルを「観光客だけの建物」にしないこともできます。京都市の「これからのお宿」が示す地域調和の考え方とも重なります。
旅行者にもできることは、意外と難しくない
持続可能な京都観光のために、旅行者ができることもあります。
- 朝など比較的混雑しにくい時間に観光する
- リアルタイムの混雑情報を確認する
- 有名観光地以外の地域を歩いてみる
- 市バスだけでなく地下鉄やJRも利用する
- 大きな荷物を持ったまま移動しない
- 住宅地では声量や通行に少し配慮する
- 地域のお店で食事や買い物をする
京都には観光客だけでなく、そこに暮らす人がいる。それを少し意識するだけでも、旅の仕方は変わります。
「泊まる場所」を変えることも観光分散につながる
京都駅、祇園、河原町だけが京都旅行の宿泊拠点ではありません。
二条のように中心観光地から少し離れ、JR・地下鉄・徒歩を組み合わせられる場所に泊まれば、旅行者の動線そのものが変わります。
HOTEL ECCLESIA GUIDEでは、「二条を拠点にする京都旅行」をはじめ、二条から京都をどう巡るかを紹介しています。
二条から西へ、北へ。あるいは、有名観光地ではない普通の京都へ。旅行者が少し違う京都を知るきっかけをつくることも、ホテルができる観光分散の一つです。
観光客を減らすことがゴールではない
京都市民の70.1%は、観光が京都市の発展に重要だと考えています。一方で79.9%は、混雑やマナー違反などのいずれかで迷惑していると答えています。
この二つは矛盾していません。
京都のオーバーツーリズムで問われているのは、「観光か、市民生活か」ではなく、観光による利益と負担を地域の中でどう調整するかです。
観光客を一部の場所へ集中させない。公共交通への負荷を減らす。地域のルールを伝える。観光消費を地域へ広げる。そして、宿泊施設自身が地域の一員になる。
京都を「観光する場所」と「暮らす場所」に分けるのではなく、暮らしの中に旅行者をどう迎えるか。
HOTEL ECCLESIA GUIDEでは、観光地の紹介だけでなく、京都で起きている課題とその背景について、これからも一次情報をもとに考えていきます。
泊まる前より、京都を少し深く知って帰る。
出典・確認情報
このページの図解は、京都市の公開資料を基にHOTEL ECCLESIA GUIDEが独自に制作しています。数値・制度は更新される場合があるため、最新情報は各公式サイトをご確認ください。